薬が効かない細菌の出現
医療業界では今、MRSAや多剤耐性緑膿菌など、薬剤耐性菌の出現が問題となっている。細菌性の肺炎や髄膜炎、尿路感染症に対して従来効果があった抗菌薬を投与しても治らず、さらに強い薬が必要となっている。この原因は、医療現場での不適切な抗菌薬使用にある。
抗菌薬は、細菌を覆う壁や生命維持に不可欠なタンパク合成、増殖を阻止することで、菌の数の制御や退治をする薬である。これに対してウイルスは、細胞壁やタンパク合成システムを持たず、寄生した細胞にDNAを複製してもらわないと増殖できない。そのため、ウイルス性の風邪やインフルエンザには抗菌薬が効かない。しかし、6割の診療所では、要望次第でこれらの患者に抗菌薬が投与されている。
私たちの体内には様々な細菌が住んでおり、これらが互いに栄養を奪い合うことで数のバランスが取れている。ここで必要もないのに抗菌薬を投与すると、菌の一部は耐性を獲得し、死んでしまった他の菌がいなくなったところで増殖を加速する。さらには菌体同士で遺伝子をやり取りすることで薬剤耐性を持つ菌が増えていくのだ。
一般国民に対する2018年の抗菌薬意識調査では、2人に1人が抗菌薬はインフルエンザや風邪に効果があると答えている。これは抗菌薬の不適切な使用の一因でありかつ、医師の不十分な説明や処方を反映しているといえよう。
このまま耐性菌が増えていくと、治療の術がない病気が出てきてしまい、人間の命を脅かすことになるだろう。実際、日本の医療業界ではこの課題が認識され始めており、国民への啓発や、抗菌薬の適正使用をした医師への評価が行われている。そのため医療従事者には、耐性菌についての正しい認識と行動が不可欠になる。